糸井 |
一番タバコが旨いのって
何てったって映画館から出たときとか、
長い嫌な、喫煙できない会議が終ったあととか、
矢野顕子とのセッションの後とか(笑)。
あっこちゃんのリハをやる前にやめてれば
何の問題もなかったんだよなあ。 |
鈴木 |
俺たち6人(ムーンライダーズ)が
禁煙した話、したよね?
あっこちゃんがコーラスで参加したときの。 |
糸井 |
ああ、知ってる、知ってる。 |
鈴木 |
まあ、しゃくだからね。
しゃくっていうのも変だけど、
「きっとタバコ吸わない人っていうのは、
ちょっとでもタバコの匂いがしただけでわかるよね」
って話になって、
「よーし、“俺たちも男だ”じゃないけど、
俺たちにも意地があるから朝から吸うのをやめよう」
って吸わなかったの。 |
糸井 |
その日、(禁断症状で)バカだったでしょ? |
鈴木 |
バカだったよ。
バカっていうか、
みんないろいろ対策を練って持ってきてるのよ。
禁煙パイポだとか、飴とか、いろいろ考えて。
あっこちゃん絡みの禁煙はイベントだね。
どうなるのか、っていうのを本人たちも
楽しみにしてる。
でも、ダメ。
いらついてきて、1人消え、2人消え、3人消えで、
みんな駐車場で吸いはじめてさ。でもまあ、
「なんで俺たち、こんな駐車場で吸ってんのかな」
っていうのを楽しめたから、いいけど。
でも、たしかに、禁煙してると、
空気はきれいになったなって感じるよね。 |
糸井 |
感じる。 |
鈴木 |
たった7、8時間で世界が変わるね。
「スタジオって空気きれいなんだなあ」
って。
で、あっこちゃんが来て、歌入れて帰った瞬間に、
モクモクモク〜〜っと
約10本くらいの煙がたった(笑)。 |
糸井 |
それがおいしいんだよー。 |
鈴木 |
でも、それは、ほんとにおいしいわけじゃないんだよ。
ただの中毒なんだよー(笑)。 |
糸井 |
そうなのよ。
要するに、煙が出て、“タバコ”って名前がついてて、
そのタバコっていう別のものとして
認識されてるという事実が
これが人間の歴史の中にもう1つ瘤のように
できてしまったけど、
ヘロイン、コカイン・・・・
っていうふうに指折りで数えて・・・・ |
鈴木 |
(タバコとコカインなどは)いっしょくただと。
それの法律で許可されているもののひとつだ、と。 |
糸井 |
しかも、タバコは産業として確立しちゃったから、
そこの働いている人口はどうするのよ、
ってこともあるじゃない。
それと、喫煙を文化論的に考えると、
それをやってきたってことは、
必要だったってことでもあるんだよ。
つまり何かの形で“悪”は必要なのよ。 |
鈴木 |
(笑)体に悪いものは必要だと。 |
糸井 |
そう。 |
鈴木 |
最初にタバコが世界中に流れ出さないでさー、
じかにマリファナだったら、
(マリファナが)商業として成り立ってたかもよ。 |
糸井 |
(タバコは)基本的にネイティブ・アメリカンが
回し飲みしたところに起源があるんでしょ?
そういうところをもっと調べて欲しいね。
その人たちは案外楽しく吸ってたかもしれないよ。
その中毒を“思し召し”みたいにしてさ。 |
鈴木 |
ああ。聖なるものだったりしてね。 |
糸井 |
で、あとポイントは“まずい”ってことなんだって。
「最初に吸ったときのこと覚えてますか?」
ってことなのよ。 |
鈴木 |
最初に吸ったときはまずかったね。 |
糸井 |
そうなのよ、まずいの。
まずくて快感がない!
だからすぐにやめられると思う、というところから
禁煙をはじめるんだ。これは説得力がある! |
鈴木 |
あるねー。 |
糸井 |
そういう話をいっぱい聞くと、
俺は(タバコを)やめようと思うよ。
タバコに操られた感じはあるもん、実際に。 |
鈴木 |
(笑)。 |
糸井 |
あの、ポケットに一箱もないって思ったときの
「うわーショック!」っていうのとかさ(笑)。 |
鈴木 |
“シケモク拾う”っていうのとかはそうだよね。
あれは、なんか、みじめな自分だよね。 |
糸井 |
それ、ちょうどあんまり好きじゃない女と
セックスだけある状態で、
「こいつ・・・・」
って思ってるんだけど、そこ(性欲)をつかれて、
“チラッ”みたいなところから、
「えいっ」と行くのとかと同じでさ、
「私は性の奴隷」とか思うじゃない(笑)。 |
鈴木 |
うわー(笑)。 |
糸井 |
そこから自由になるためにそいつと別れて、
「もっとそれ込みでいいの、いないかなあ」
とか思うじゃない。それだよ(笑)。 |
鈴木 |
うわー。 |
糸井 |
それとかさー、子供がいて別れられない夫とか、
いろんなパターンがあるけど、
「何だよ、その自由を俺から奪うものは」
っていうときに、
タバコを別枠にしているのはどうなんだよ、って。
やっぱりタバコって、実はヤクなんだなあ、と、
そこまで、俺、すっかり理解したの。
(目の前のコーヒーカップを指して)
コーヒーも中毒だな。 |
鈴木 |
コーヒーは、俺、飲まないんだな。
でも、一時期飲んでたよ。
で、あるとき、ほんとにあるとき、だよ。
「あれっ、これ泥水みたいだなあ」
って思ってさー。
これっておいしい?
これもタバコに近いなあ、と思って、
飲めなくなっちゃった。
でも、タバコはやめてないけど。
はじめて飲んだときおいしかったかなあ? |
糸井 |
嗜好品ってみんなそういうとこあるよね。 |
鈴木 |
うん、あるね。
(コーヒーは)突然、はじめて飲んだときの
まずさがよみがえってねー。
ただねえ、アイスコーヒーは飲めた。 |
糸井 |
アイスコーヒーはおいしいんだね。 |
鈴木 |
うん。甘くてね。
で、缶コーヒーも飲んでたの。
それまではずーっとブラックで飲んでたんだけど、
まず、ブラックがダメになって、
そんでブラックをやめて、
アイスコーヒー、缶コーヒー時代が続いて、
でもそれもダメになった。
なんていうかのなあ、
(アイスコーヒーも缶コーヒーも)
どこか苦味というかまずい部分があるよね。
そのまずさが妙に鼻につくようになって、突然。
まあ、突然ばったりとやめたわけじゃなくて、
アイスコーヒー時代もあって、
缶コーヒー時代もあって
なだらかにやめていったの。
いまは、全然飲まないね。
ただ、(コーヒーを)出されちゃったりすると、
飲むけどね(笑)。 |
糸井 |
それは気が弱いから?(笑) |
鈴木 |
そう! 言えないの!(笑)
鼠穴では言えるんだけど、ふだんは
「すみません、コーヒー飲めなくて・・・・」
って言えなくて、飲んじゃうんだよ(笑)。 |
武井 |
後で気持ち悪くなるようなことはない? |
鈴木 |
それはない。
で、飲んで、まずいなとも思うの。
思うんだけど、それより気が弱いから・・・・(笑)
でも、コーヒーって、
みんな飲むに決まってるっていう、
タクシーに乗ると
「お客さん、今日巨人負けましたよ」
のような、暗黙の絶対っていうか、
いわば、悪のようなとこがあるね。 |
糸井 |
じゃあ、きょうのテーマは
“人類の悪について”にしましょうか(笑)。
でも、それは大きいテーマだよね。 |
鈴木 |
「まずいものをなぜ食うか」
っていうのもそうだよね。 |
糸井 |
最初に俺が思ったのは、ずっと、
チーズをうまいって思ったことがなかったのよ。
正直言って。 |
鈴木 |
俺もなかった。 |
糸井 |
で、チーズをおいしいと思うのがいいんだ、
っていう価値観も同時にあるじゃない。
じゃあ、どうして自分にはおいしくないんだろう、
ってなったときに、ガマンするじゃん。
で、大人になるまでに
何回かガマンするものってあるよね。
香辛料はだいたいみんなそうだよね。 |
鈴木 |
そうだね。
大人になると、付き合ってる人によって、
チーズおいしいよって言っちゃったりもするけど。 |
糸井 |
で、コショウなんかに関しては
分量なんかだいたいなんとか自分で調節できるよな。
あとは、ホヤがそうだし、
コーヒー、チーズ、セロリもそうだね。 |
鈴木 |
俺、セロリいまだにダメだもん。
あと、ピーマン。 |
糸井 |
ピーマンも、だね。
最初まずいと思ったものが乗り越えられると、
なんか自分が大人になったような気がするよね(笑)。 |
鈴木 |
俺の場合は、それはピーマンだね。
あれは、食えなくてまずいものだと思っていたのよ、
小学校時代。
これもちゃんとした記憶がないんだけど、
あるとき突然、こんなに、苦いんだけど、
独特の刺激があるものはないな、と思ってさ、
突然食え出したんだよ、ピーマンを。
それは、やっぱり毛が生えてからだな(笑)。 |
糸井 |
ああ! なんてわかりやすい(笑)。 |
鈴木 |
第2次性徴期ごろかな。 |
糸井 |
そのとき(第2次性徴期)に、
それまで無理だったものを
どんどん採り入れていくよね。
たとえば・・・俺は何でもエロに結びつけるんだけど、
最初にエロ写真を見たときに
俺は夕食が食えなくなったんですよ。
それははっきりと覚えてるんです。 |
鈴木 |
ああ、気持ち悪くなって? |
糸井 |
うん。
要するに、悪いものを見てしまったような・・・ |
鈴木 |
わかる。
なんだろう、こんなものを見てしまった、大変だってね。 |
糸井 |
そう。
親に言えないし。
そんで、夕方ねー、景色の色まで覚えてるんだけど、
夕飯はてんぷらだったのよ。
でも、ダメなの、食欲が湧かなくて。 |
鈴木 |
俺も(はじめてエロ写真を見たときのこと)覚えてる。 |
糸井 |
おっ、覚えてる? |
鈴木 |
最初にエロ写真見たときは、食欲湧かなくなった。 |
糸井 |
ああ、やっぱり。 |
鈴木 |
それはねー、何と親父の部屋で発見されたの(笑)。 |
糸井 |
おおっ! |
鈴木 |
引き出し開けたりしてたら、小説があってさ。
その小説をピラっとあけたら
いきなり(エロ)写真なのよ。
しかも挿入されている写真なのよ。
見た瞬間、なんだかよくわかんない。
見たことがないわけじゃない、女性の陰部を。
おくふろと風呂入ったって、
そんなに凝視するわけじゃないし。
だから、完全に(陰部が)オープンな状態を
見たことがないわけよ。
それだから、「なんだ、これは!?」と思って
その日の2階の部屋の空気、天気すべて覚えてる。
さすがに、晩飯が何かまでは覚えてないけど(笑)。 |
糸井 |
晩飯はてんぷらだったことは覚えてるんだよ(笑)。
だって、そんな飯が食えなくなる日なんて
ないんだよ、ふだん。
中学2年くらいかな、俺。 |
鈴木 |
俺はもうちょっと若いですよ。
小学校3、4年くらいですね。
最初に精通があったときも、
ショックで飯が食えなかったけどね。 |
糸井 |
それも、すごい嫌悪感があったね。
俺も覚えてる。 |
鈴木 |
俺はねえー、いじってるうちに、
(声を裏返して)
「ありゃりゃ〜〜〜」
ってなっちゃったの(笑)。 |
糸井 |
そこから、今の歌唱法がきてるのか!(笑) |
鈴木 |
そうセーツー唱法。
そんでさー、悩んでさー、
白いものなんだけど、何か体の中から出るってことは、
その頃性教育なんてまともになされてないから、
俺、女だと思ったの、自分を。
これが生理というものか、って(笑)。 |
糸井 |
“俺は実は女だった!” |
鈴木 |
これが生理というものか、と思っちゃったのね。 |
糸井 |
すごい飛躍だね。 |
鈴木 |
うん、すごい飛躍。
その飛躍がよくわかんないんだけど、
生理というものが出血するものだ、
とか思ってなかったからね。
月いちで何かが訪れる、くらいの認識だから。
だから、俺は女じゃないのか、ということで
悩みこんで、晩飯食えなくて寝られなくて。 |
糸井 |
じゃあ、人生で晩飯食えないくらいのショックって
少なくとも2度はあったんだね。 |
鈴木 |
うん。3度はあった。
もう1回はねー、中学のときに理科室で
「みなさん、今日は映画の時間です」
っていうから楽しみしてたのよ。
そしたらねー、それが免停のときに見させられる
交通事故の映画だったの。
とにかく最初はみんな芝居だと思って見てる。
ううっ・・・・とか言って血とか出して
うめいてるんだけど、
途中10分くらいしてからかな、
死んだ子供が棺桶に入って
紫色になってる顔を映したんだよ。で、
これは本物だと全員がわかったの。 |
糸井 |
きびしいなあ。 |
鈴木 |
そしたら、「うっ」と吐くヤツもいるし、
その日も食えなかったね。
その日も景色まで覚えているけど、
中学校出て、友達3人で帰ってたんだけど、
3人ともふらふらしてんだよ。 |
糸井 |
その“ふらふら”っていうのは俺もあるわ。
図書室でいろんな本を読む時間っていうときに、
誰かが原爆の写真を見つけてきちゃったんだよ。 |
鈴木 |
ああ。それもあるねー。 |
糸井 |
それで、見たい見たくないの気持ちの中で
ものすごく揺れ動いて、
とにかく、これは
見ちゃいけないような気はしてるんだけど、
見ちゃったわけよ。
でも、それはその後先生が禁止したね。
とにかくふらふらになるって感じ。 |
鈴木 |
それは、俺の交通事故のフィルムとほぼ近いね。
そういうものを見てしまってふらふらするっていう。
その日はかんかん照りだったけど、
3人とも俺んちで、座ってるんだけど、
何にもしゃべんなくて(笑)。
なんか、こう戦意喪失状態っていうかな。
戦意はもともとないけど(笑)。 |
糸井 |
(笑)。 |
鈴木 |
そんで、そのまま友達は帰るわ、って言って帰って、
その後晩飯食えなかったね。
その原爆の写真もそうだよ。ってことは4度か。
それは、俺、『24時間の情事』っていう映画を
子供とき親に連れられて見たんだけど、
いきなりベッドシーンからはじまるんだけど、
その時点で気持ちは悪いんだけどさー、 |
糸井 |
ベッドシーンって気持ち悪かったよねー。 |
鈴木 |
そんとき、ギャーって泣いて、
帰るって言ってるんだけど、なんか座らされて、
その後原爆のシーンがくるわけだ。
そこでもう決定的で、
もうしょうがないから帰ろうって
帰ってきたんだけどね。
その日も食えなかったね。 |
糸井 |
あの、なんかさー、こう最初ヤダけど乗り越えるって
全部、性のメタファーだね。 |
鈴木 |
ピーマンはどうかっていうのはわからないけど(笑)。
まあ、毛が生えた頃に食えたわけだから、
強引につなげれば・・・・
火星人の睾丸かな。 |
糸井 |
通過儀礼(笑)。
要するに、種を残す資格を得たときだな。
その自由に羊水の中に漂っている、
ある意味、無ストレス状態が子供だとすると、
有ストレスの中で生きて行かねばならない、
っていうのが大人であると。 |
鈴木 |
そうだね。
でも、それで大人になったかと言えば、
更に(大人になるには)何重にもハードルが
あるんだろうけど、一つ目のハードルは、
それ(ヤダけど乗り越える)だな。
(つづく) |